渓流釣りでどうしても目安にしてしまう基準がある。それが1尺(約30cm)。この尺というサイズに多くの釣り人は、僅か5mm足りずに泣き、1mmでも越えると大喜びしてしまう。
海釣りから見れば30cmなんて極当たり前の大きさだから、渓流釣り師がこの30cmに何故拘るかは理解できないかもしれない。ヤマメ・アマゴ・岩魚といった日本の在来魚は一生を生まれ育った川で過ごす。岩魚を除いてヤマメとアマゴの寿命は凡そ3年(岩魚は4〜5年)。生まれた年の1年子(ヤマメ・アマゴ)は年の終わりに約8〜12cmに育つ。2歳になると16〜18cm。寿命が終わる3年目で平均20〜24cmぐらい(この数値は一般的な規模の渓流での平均値)。
つまり、尺物に育つには、生育環境が良かったり、仲間との生存競争が少なかったり、またホルモンバランスの異常で大きくなる体質だったりしなければ、30cmを越える事は稀になる。そのため、フライフィッシングで使う魚をすくうランディングネットの内枠の径は、一般的に良型とされる24〜26cmくらいが多い。このサイズがあれば、稀に尺物がきても余裕をもってすくえるからだ。それに平均サイズでもネットと一緒に写真を撮る時、大仰にならず見栄えが良い(魚写りが良い?)。
私も基本的にこのサイズのランディングネットを使用する。魚の写真を撮る際、主役は美しい渓流魚であり、ネットはそれを際立たせる脇役でなければいけない。勿論、フレームやグリップに使う木に拘ったり、網を何色にしようかと悩むが、それはあくまでも主役の渓流魚の為で、ネット自体を主役にさせるものではない(と、言いつつ、拘りの道具を持ちたいと言う物欲も多分にあるのは確か)。しかし、このランディングネット。内枠が30cmを越えると、ネット自体の存在感がとたんに大きくなる。
確かに大は小をかねるが、主役が入れ替わってしまっては意味が無い。渓流で尺ネットを使うにはその存在を凌駕する魚しか狙わないという覚悟がいる。そんな覚悟を持てない私は、当然、小さめのネットをベストの背中にぶら下げている。だけど、尺ネットを作っていると、ど〜だと言わんばかりのその存在感に魅了され、主役だ脇役だなんて考えが吹っ飛び、1本作っちゃおうかな〜と心がグラグラ。本流用ならいいかな〜、と自分に言い聞かせてみるが、へタレな私にはまだ覚悟が出来ない。でも、作っちゃおうかな〜。
※写真はグリップが黒柿の尺ネット。ベストの背中にど〜だ!と言わんばかりの存在感。確かにカッコイイんだよな〜。当然、私のじゃ〜ありません(へタレですから)。